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2005年9月号……『圧倒的な感動』 塾長/青沼 隆

先日、大学生の長男を連れて六本木の俳優座に行った。以前はよく演奏会に出かけたが、最近はどうしても聴きたいという演奏家がいなくなり、その代わりに、オペラや演劇に行く機会が増えた。もともと、ナマの人間のパーフォーマンスが好きで、野球などのスポーツ観戦にもよく足を運んでいる。

実は、俳優座に行くのは初めてだった。六本木といえば、昔、私が会社勤めをしていた頃、半分仕事、半分遊びでよく通った街だ。久しぶりに六本木の街を歩いてみたが、昔通っていた店はすべて名前が変わっていた。記憶にない建物もいくつかあった。変化の激しい街の中で、浦島太郎のような気分を味わった。

その当時から俳優座の存在は知っていた。ただ、その時は、演劇にはまったく関心がなく、私にとっては別世界だった。初めて足を踏み入れた俳優座は定員が200名超の小さな劇場だった。建物も古く、お世辞にもキレイな劇場とは言い難かった。ただ、開演時刻にはほぼ満員となり、しかも多くの人が馴染みのお客さんのようで根強い人気を感じた。

演劇が始まり、最初の5分間で圧倒された。これまで私が観てきた演劇とはまったく別ものだった。実は、私がこれまで観てきた演劇は、明治座や新橋演舞場などで行われているもので、主演している俳優は元歌手であったりした。この夏も、同じ長男を連れて明治座で演劇を観たが、彼の感想は「高校の文化祭と同じよう」だった。

サスペンス風のストーリーにも魅了されたが、何よりも演技力に圧倒された。1つ1つの場面が舞台と調和して、まるで、美しい絵画のようだった。

終演後、しばらく、口を開くのがイヤだった。長男も同じ気持ちと見えて、劇場を出るまでお互いに一言も言葉を交わさなかった。そのまま、近くの店に入り、ビールを口にしたが、言葉を交わしたのはその後であった。言葉を失ってしまう感動を味わったのは久しぶりだった。かつて、レコードで美しい音楽に出会ったり、演奏会で名演奏に接した際に、これと同じ感動を味わったことはあるが、演劇では初めてだった。

私は、人生というものがどういうものであるのかよくわかっていない。しかし、人生の醍醐味の1つは、感動を味わうことにあるのは確かなような気がする。感動によって、自分自身がどのように変わたのかよくわからない。まして、それによって自分が成長したという実感はまるでない。しかし、何かが変わったのは間違いないような気がする。

街の中では、ボーッと座り込んでいたり、目的もなく数人がたむろしている姿を見ることがある。この子どもたちが、もし、圧倒的な感動と出会ったなら、少なくても、その後しばらくは、行動が変わるのではないかと思う。圧倒的な感動に出会える確率は低い。ただ、少なくても、自分が感動を味わったレコードや書籍などは紹介することができる。もちろん、それらによって、彼らが圧倒的な感動を得られる保証は何もない。しかし、それらを紹介していくことが、大人の義務の1つかもしれないと感じた。

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