2003年8月号……『数学を通して見た私立学校の実態』 塾長/青沼 隆

数学の履修パターンは複雑
この1年間、さまざまな私立学校を訪問して、数学の授業の事態についてヒアリングをしてきました。数学は英語とは異なり、大学の進路選択によって学習するパターンが大きく違ってきます。例えば、私立大学の文系学部では通常、数学は入試科目に入っていません。従って、この大学を目指す高校生の中は、最終的に数学を“捨てる”ことになります。高1終了時点で数学を学ばなくなる子どもも中にはいます。また、国立大学文系を目指す高校生はセンター試験に課せられる数ⅠAと数ⅡB(高1高2レベル)までを履修します。理系の大学を目指す高校生はさらに数ⅢC(高3レベル)までを学びます。しかし、同じ理系でも、薬学部や看護系学部などでは数ⅢCが課せられないことが多いので、このコースを目指す高校生は普通は数ⅢCを学びません。これらの大学受験科目の実態を踏まえ、多くの私立学校では、高2から文系と理系のクラス分けを行います。

一般的に、高校の偏差値レベルが高くなるに従って理系コースに進む生徒の割合が高まります。また、その中でも数ⅢCまで学ぶ生徒の割合が増える傾向にあります。あまり偏差値レベルの高くない高校や女子校では、数ⅢCまで学ぶ生徒は多くありません。数人という高校も珍しくありません。この背景には、女子は理系の中でも、薬学や看護に進むケースが多いことも一因です。

大学受験には演習が必要
大学入試の数学で合格点を取るためには、一通りの教科書レベルを終えた後、より高度な問題の演習を一定期間積む必要があります。これに必要な時間は子どもによって違いますが、「できれば1年間欲しい」というのが多くの数学教師の最大公約数的な認識です。ということは、高2時点で高3までの数学がすべて終わらなければならないことを意味します。従って、私立学校、特に中高一貫校では数学の授業の先取りが行われます。そして、ここにさまざまな問題が生じます。

いわゆるトップレベルの私立中高一貫校(高校の偏差値で70以上)では、高校2年で数ⅢCを終えています。これらの高校では高3の一年間が入試演習に当てられ、国公立を中心に現役でかなりの難関大学に合格者を輩出しています。もちろん、浪人も多数出していますが、“東大に何人合格”という話題を提供するのはこのレベルの私立です。

問題は、これより下の私立です。偏差値レベル65以下の一貫校では、なかなか高2で終了というわけにはいきません。学習スケジュール上では高2で終わることになっていても、生徒のレベルの追いつかずに、高3の1学期位でやっと終了というのが実態です。早く進めようとすれば、ついてこられない生徒が増えてしまうし、上位者のためにはもっと早く進めたい………というジレンマに悩まされているようです。また、必ずしも全員が数ⅢCまで履修するとは限らず、クラス分けなどで苦労している学校も多数あります。場合によっては、数ⅢCを必要としない生徒にも履修させているケースがあります。
さらに偏差値60以下のレベルの私立になりますと、先取り学習そのものが困難になります。ですから、学校の進度に合わせて学習している子どもは、まず、現役で合格することは不可能となります。ある私立の先生は、「学校にすべてを期待されても対応不可能だ」とおっしゃていました。正直な実感だと思います。ただ、保護者の方は、学校にまじめに通っていれば何とかしてくれるはず、と期待しているはずです。この辺りの矛盾がどのように保護者の方に説明されているのか問題だと思います。

ちなみに県立高校では、偏差値レベルに拘わらず先取りは一切行われていません。県立生の浪人が多いのもここに一因があります。また、高校から私立に進学した場合も先取りはかなり困難です。数学の学習内容の密度が、中学より高校の方がはるかに高いためです。中高一貫校が先取りをするパターンは、中2までに中1~中3分を終えて、中3~高2で高1~3分を学ぶケースがほとんどです。つまり、中学3年分を2年間、高校3年分を3年間かけるというのが標準です。
私立の中身を見極めよう

最近、理系志望の子供が増えたため、多くの私立学校では“理系コース”とか“特別進学コース”を新設するケースが増えています。これらのコースでは、確かに数学・英語・理科などの授業時間数が多く割り当てられ、また、補習も充実させているようです。しかし、カリキュラムの進度(先取り)という点ではあまり配慮されていないケースが多く見受けられます。場合によっては、学校内部の経営者サイドの意向によってコースが作られ、教務サイド(先生側)との連係がしっかり取れていないのではないかと思われるケースもあります。安易なコース設定は将来に禍根を残す恐れがあるのではないと危惧しています。

数学は“積み重ね”の学問です。どこかがでつまずいてしまえば先になかなか進めません。一方で、有名大学に合格するためには先取り学習が不可欠です。早く進めば下の生徒が落ちてしまうし、ゆっくり進めれば大学に合格できない。生徒の力は上から下まで“細長い列”を作っている………たぶん、あらゆる教科の中で一番、いろいろなジレンマが起こりやすい教科だと思います。私自身、これまで数多くの学校を訪問していろいろな先生の話を聞いてきましたが、この1年間、数学にポイントを絞って話を聞く中で、今まで全く見えてこなかった私立学校の実態に触れることができました。私立に進学させることをご検討されているご両親さま方におかれましては、学校を訪問をしたおりに、是非、このことをお確かめになることをお勧めします。

トップページに戻る