2014年3月号……『伝統芸能に見る勉強法のヒント』 講師/山内 雄司

長年にわたって受け継がれている伝統技術というものがあります。工芸であったり、音楽や踊りであったり、さまざまです。中には、「なんと高い技術と芸術性だろう!」と驚くものもあれば、「なんじゃこりゃ?」と首をかしげてしまうものもあります。(こちらの目が肥えればすばらしさがわかるのかも知れませんが…)

いずれにしろ「伝統」ですので、人から人に教えられ、習得され続けなければいけません。その「習得する」ための方法論には、私たち塾に関わる者が「なるほど」と思う貴重な知恵がたくさんあるように思えます。

3月15日に「勉強の効果を上げる 太極拳入門」という無料講座を行います。太極拳は実によく構築された技術体系です。そして、その習得に関する考え方は、学問を身につける生徒にとってかなり有効だという思いがずっとありました。今回の講座ではそのうちのいくつかをご紹介できればと考えています。

よく聞かれる疑問に、「太極拳はなぜゆっくり動くのか?」というものがあります。太極拳は武術です。敵と戦うのにゆっくり動くわけがありません。もちろん戦うときには速く動きます。それにも関らず、ゆっくり動く練習を重視します。その理由にはまず次のようなものから挙げられると思います。

「複雑な過程をしっかりマスターするため」です。太極拳では、左右の手や、上半身と下半身がそれぞれ別のリズムで動くということがあります。また、目の前の敵に動きを見破られないようにするという効果もあります。このような複雑な動きは、乱雑に、粗野に、腕力に任せて練習しては決してマスターできません。

これは、私たちが生徒に口うるさく言っている「ノートの取り方」に共通します。テキストの数式を丁寧に写す。途中式をきちんと書く。計算スペースを設けて、計算の跡を残す。線文図を描く。インデントを作る……などなど。

面倒くさがりの子、気のはやる子には、この意義がなかなか納得できません。「このぐらいの問題なら途中式や図なんかいらない」「テキストに直接書き込めば早い」と考えてしまいます。しかし、「途中式や図なんか必要ない」というレベルを目的にしているわけではありません。より高度な問題・課題に取り組み解決していける力を養うことが目的です。そのためには、ひとつひとつの手順を確かめながら正しい考え方を推し進める必要があるのです。この勉強方法を、時間制限のある入試や模試と混同してはいけません。

また、太極拳は「探しながら進む」練習をします。「身体」や「心」のすべてがなめらかに連動し、「自然」を体現する、という雲をつかむようなものを追求します。ですから練習者は、「ちゃんと力が順に伝わり、のびのびとできているかな」とか、「この姿勢では気が流れず無理がある。もう少し背筋を伸ばしてみよう」とか考えながら練習するのです。

これも勉強に向かう生徒と共通します。「これだけの単語を覚えるにはどうしたらいいだろう?」「ぼくにふさわしい覚え方とは何だろう?」から始まり、「そもそも、勉強をする目的って何だろう?」「将来の夢のために、今の勉強はどうつながって行くのだろう?」といったことまで、自問自答しながら進める子は間違いなく伸びます。勉強を通じて自分との対話をして欲しいのです。

名人たちが「自然なあり方」を模索したように、子どもたちには勉強を通じて「自分のあるべき姿」を見つけていく。そんな学習をしてほしいと思います。

(今月は「勉強の効果を上げる 太極拳入門」を担当した山内がエッセイを書きました)

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